住まいを終活する ~これ以上、空き家を増やさないために私たちができること~ 野澤 千絵さん講演会レポート

2020年1月24日(金)
午後7時~ (受付開始:午後6時30分~)
ベルディーホール 会議室


講師:野澤 千絵さん
【東洋大学理工学部建築学科教授】
兵庫県生まれ。1996年大阪大学大学院環境工学専攻修士課程修了後、ゼネコンにて開発計画業務等に従事。その後、東京大学大学院都市工学専攻博士課程に入学、2002年博士号(工学)取得。東京大学先端科学技術研究センター特任助手、同大学大学院都市工学専攻非常勤講師を経て、2007年より東洋大学理工学部建築学科准教授。2015年より現職。


 人口減少や核家族化、少子化などが加速する中で、空き家の増加は多可町だけではなく全国的に大きな課題になっています。
 多数の空き家に関係する著書があり、メディアにも多数出演されておられる野澤千絵さんをお迎えして、この機会に地域の皆さまと一緒に今後確実に増える「空き家」について考えてみました。

 総務省の調査によると、1983年当時は125万戸だったその他空き家※1の数が2018年には347万戸という数に膨れ上がり、今後さらに加速度的に増加するといわれています。空き家にはいくつかのタイプがあって、賃貸や売却を待っている状態のものや別荘使いのものなどもありますが、家主が遠方に住んでいたり、長期間管理がされていない状態のものが増えると、将来、いわゆる「危険空き家」という状態になってしまう可能性が非常に高くなってしまいます。
 そうした状態を鑑みて、国は2015年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」という法律を施行し、役場の担当職員が固定資産税の課税情報を取得して空き家の所有者に適正管理に関する助言や指導ができるようになりました。また、特定空家等(危険空き家)に関しては、自治体からの勧告に従わない場合は固定資産税の住宅用地の軽減措置を解除することも可能になりました。2018年に「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が施行され、所有者への注意喚起など所有者不明の土地に関する取り扱いが、以前よりはスムーズに行えるようになりました。

 空き家問題の根本的な要因は、「問題の先送り」にあると野澤さんは言います。今後、使う予定がないことが分かっていても、「遺品や仏壇がある」「思い出がある」「親戚が反対する」「相続でもめている」「所有者が認知症発症で判断ができない」など、様々な事情に向き合うことを先延ばしにして、「固定資産税もそれほど高くないし、とりあえずまた今度考えよう」という意識から、そのまま長期間放置されてしまうケースが多いようです。


 空き家の所有者が亡くなった場合、その相続権はその方の子どもに移りますが、もし子ども全員が相続放棄をすると被相続人の親と兄弟姉妹などに移っていきます。そうした相続は、相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければ、自動的に相続したことになってしまいます。こうした法的な仕組みもあまり広く知られていないため、いつの間にか遠い親戚の空き家を相続したことになっていた…というケースもあるようです。
 相続権が親戚を回りまわっていくにしたがって、当然、当事者意識も低くなりますので、さらに空き家が放置されるという結果につながります。ほとんど会ったことがないような親戚の物件を相続させられ、除却費用を負担しなければいけないという悲惨な状態になることが容易に予想できますので、将来の世代への負担押し付けを避けるためにも、「問題の先送り」には何も良いことがないのです。
 空き家は日本だけの問題ではありませんが、日本では、これから10〜20年の間に、人口減少とこれまでよりも世帯消滅が倍層するということがくることは分かっていますので、それらの対策は時間との闘いともいえるでしょう。

 そのために具体的に今からできることは、「住まいの終活」という考え方だと野澤さんは提案します。次の世代が困らないためにも、相続が発生する前から、所有者や相続予定者が次に引き継ぐための準備をしておくということです。個人で取り組むのが難しい場合は、自治体や地域のまちづくりNPOなどに相談してみるのもひとつの方法です。
 「住まいの終活」をするためには、まず自分がどういった不動産を所有しているのかをリスト化する必要があります。農地や山などは、先代から引き継いでから一度も現地を訪問したことがないという人も多いかもしれません。まずは不動産に関する情報を整理することから始めることが大切です。固定資産税の納税通知書を見るとその内訳が書かれていますし、ネットの「登記情報提供サービス」というサイトを活用して調べることも可能だそうです。

 どういった不動産を所有しているか分かったら、それらの物件を将来的に「活用」するのか、「解体」するのかを考えてみましょう。「活用」する場合には、流通性が高い地域なのか、流通性の低い地域なのかによっても方法が違いますが、通性が高い地域の場合は不動産の市場価値などを調べてみるのも良いでしょう。空き家は、人が住まなくなった途端に傷んできますので、実際に住まなくなる前からシミュレーションをしてみることが大切だそうです。
 「解体」する場合でも土地は残りますので、その土地を売る・貸す・無償譲渡するなどのいずれかを検討しなければいけません。流通性が低い地域であればあるほど、地元の信頼できる不動産会社や地域に根ざした民間団体や自治体の空き家バンクなどを活用しなければ、なかなか情報が希望者には届きませんし、時間もかかります。そのためにも、早めに準備をしておくに越したことはありません。


 講演会の締め括りとして、野澤さんは「空き家対応の7つの原則(私案)」と提唱されています。

  • 行政と民間の連携には、役割分担を明確にした仕組みづくりを行うこと。
  • 行政は、行政にしかできないこと=周知・情報提供や補助金の獲得、空き家所有者の探索・連絡を行うことに重きを置くこと。
  • まちづくりの発想を持った地元不動産会社などのキーマンが民間側にいること。
  • 投資等で儲けることしか考えていない購入者等の見極めを行うこと=行政・民間共に、責任ある買い手・借り手にバトンタッチすることに力点を置くこと(とりあえず、誰でもよいから売れれば良いという姿勢はNG)。
  • 人口増加ばかり狙うよりも、まずは空き家の利活用や改修などによる地域との交流人口・地域経済の活性化からスタートすること。
  • 地域コミュニティが外部からの受け入れに理解があり、寛容なこと。
  • 空き家購入者等をまちづくりに巻き込み、有力な地域の応援団にすること。

 これらの提案からも、「行政と民間の連携」「購入者の見極め」「受け入れ体制」が大切であることが分かります。全体の総括として、「問題を先送りにしない=早めの対策」が、住まいの終活の要のようです。75歳を機に始めようとも言われていました。
 さらに野澤さんの私案ですが、「地域商社による戸建てリースバック」として、元気なうちに住まいを売却して、売却した費用の中から賃貸契約(ただし、居住の安定性がある普通借家契約とする)をしてそのまま住み続けることができる…という方法もあるのではないかというアイデアもご紹介いただきました。

 空き家や地域の在り方は時代と共に変化しますので、こうした新たなアイデアを元にした取り組みにチャレンジをしながら、地域の姿を模索していくことが大切なのではないかと感じました。


※1 別荘、賃貸・売却用の住宅を除いた空家になっている住宅。例えば、転勤・入院などのために居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅など。