VOL. 15
杉山 大助さん&恵子さん
地区:加美区奥豊部
2017年に初めて多可町を訪問した杉山さん夫妻。このまちの美しい景色や多くの古民家が残されている風景を見て、いつか移住できたら良いな…という思いを持ったそうです。
恵子さんの実家が加古川ということもあり、その後、何度か多可町を訪問していくつか物件を見ているうちに、2019年の夏に気に入った古民家に出会うことができました。
恵子さんの仕事の目処がつくまでにはあと数年間が必要なので、先に大助さんがご自分で家の改修作業を行い、完成したら恵子さんの退職までの期間は貸し出して、その後、自分たちが住む家として使うという計画です。
※恵子さんは現在も東京にお住まいなので、改修作業中の大助さんに話をお聞きしました。
大助さん(DIY大家)
恵子さん(薬剤師)
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子ども時代
私の生まれは、寅さんの故郷として有名な東京の葛飾区ですがあまり記憶になくて、幼稚園の年少か年長のときに父親の仕事の関係で埼玉に引っ越しをしました。
今とは違って、ほんとに田舎で自然がたくさん残っているような地域だったので、友達と一緒によく遊びました。私の興味の対象は、「この水路はどこにつながっているんだろう…」というようなことでしたので、何か物事に興味を持つと、それを調べてみたいという欲求が強かったんでしょうね。
部活をやったりとかスポーツに興味を持ったりということはなかったんですが、とにかく自分でいろいろ調べて物を作るのが好きでした。 -
大工の仕事に興味を持つ
これは今やっていることのベースになっているんだと思いますが、子どもの頃から大工の仕事には興味があって、昔は今のプレカットとは違って近所で家を建てている現場では、その場で職人が鉋をかけていたりホゾを彫ったりする風景を見られたので、よく見に行っていました。それを真似して、自分で犬小屋を作ったりしていたんですよ。母は手芸などは好きでしたが、父は銀行員でしたし、特に親の影響を受けたというきっかけは何もなかったんですが、大工の仕事は見ていてカッコいいなと思いましたね。
当時は今みたいにホームセンターというのがどこにでもある時代ではなかったんですが、埼玉の家の近くにはジョイフル本田という大型ホームセンターの走りのような店舗があって、必要なものは何でも揃いました。今でも、多可町の近くにあれば良いのに…って思うことがよくあります。 -
大学時代から就職
東京の大学に進学することになって、親元を離れて都会暮らしをすることになりました。専攻は物理なんですが、特に物理に興味があったわけでもないんです。その頃は就職も引く手数多でしたので、どの分野に行っても仕事に困ることはないだろうと思っていました。
今も妻の恵子は東京の品川に住んでいますが、東京は何でもありますよ。若い人たちが東京に行きたいっていう理由も分かりますよね。5分に1本電車が来ますので、車なんて無くても全然生活できますし、物が溢れているので欲しいものは何でも手に入る。そういう生活も、まぁ良いのかなという気もしますが、窓から見える景色はビルばっかりです。
大学を出て、神奈川の会社に就職し、コンピューターのエンジニアとして現在まで働いてきました。来年で退職予定ですが、ずっと同じ会社で働き続けてきました。
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伊豆で大工作業に関わる
そんな中、友人が伊豆で土砂が堆積して使われなくなった広大な河川敷を購入して、ススキや大きな石だらけの土地を自分で開墾して、テレビ番組の「DASH村」みたいなキャンプができる場所を作ろう!と言い出しました。私が関わったのは、ほぼ開墾が終わった頃でしたが、そこから先、人が泊まるための小屋だったりガレージなどを造る手伝いをして、「自分で家を造る」という楽しさを知りました。
妻の恵子と出会ったのもその頃です。彼女も他の友人たちと一緒にこの開墾地に遊びに来ていて、そこで知り合い結婚することになりました。
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自分たちが住む家を建ててみよう!
自分の仕事は仕事として、将来、現役を退いたときに自分たちが生きていくためのライフワークとして、何か社会に貢献できて、なおかつ生活の糧になるようなことができないかな…と思っていましたので、せっかく伊豆にご縁ができたので、そこに自分で家を建てて家造りのノウハウを学ぼうと思いました。
友人の開墾地に関わっていると、必然的に大工や水道・電気などの専門家も集まって来るので、そういったことを学ぶにはもってこいの機会でした。家を造るために必要な電気工事士の資格も取得して、一人で始めました。
仕事を休職できる期間でしたので、先に寝泊まりができる小さな小屋と倉庫を建てて、私だけそこに住みながら家造りをしていました。恵子は東京で仕事をしていましたのでいきなり別居状態ですが、今、私が先に多可町に来ているのと同じ状態ですね。
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家造りから学んだこと
その地域も、人口2000人ぐらいの小さな村だったのですが、伊豆は観光地なのでよそ者には慣れているんでしょうね。特に堅苦しいお付き合いなどは全然ありませんでした。
DIYで家を建てていて良いところは、全然知らない人たちが、ふらっと見に来てくれることですね。庭先でいろんな話をするきっかけになりますので、自然に集落の中に溶け込むことができるようになります。このことは是非、皆さんにおすすめしたいですね。知らない人の家に行ったり来たりするのはお互い抵抗があると思いますけど、一生懸命DIYをやっている人に悪い人はいない!って思ってもらえるんでしょうね。いつの間にか、その地域の人たちに馴染むことができますよ。
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ちょうど良い田舎・多可町
伊豆の家が完成してからしばらく別荘のような感じで使っていたんですが、その頃に「DIY大家」という言葉に出会いました。家を借りた人が自分で家を改修しても良いという条件での「DIY賃貸」という言葉は少しずつ浸透し始めていますけど、「DIY大家」というのは、まだあまり馴染みがないかもしれませんね。要するに、家を取得した大家自らがコストを抑えつつ物件を改修して賃貸として貸し出すという方法です。思い返してみると、伊豆の家がまさに私にとってのその先駆けでしたが、「DIY大家」をやるには、何と言うかもっと突き抜けた感じのものが欲しかったんですよね。そんなときに、ふとしたきっかけから多可町に行くことになったんです。
妻の実家の加古川からはそれほど遠くないエリアなのですが、行ってみると素晴らしい自然の景色があって、それになんと言っても質の良い古民家があちこちに残されているまち並みにとても魅力を感じました。しかも、神戸や大阪、姫路などの都心部にも簡単に出ることができますので、そこも私にとってはちょうど良い条件でしたね。
それに、このまちにはおもしろいことをしている人たちがたくさんいるんですよね。それが魅力のひとつでもあります。移住を検討している人たちなどが集まる「多可町で暮らそう!」交流会にも参加させてもらいましたが、魅力的な人がたくさんおられます。そういう人たちが活躍できる地域は、きっと良い場所に違いないと思いますよ。
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奥豊部で一番高い家
最初に多可町を訪問してから何度か訪問していくつか物件を見せていただきましたが、いずれも素晴らしい古民家でした。この地域の古民家は、造りがしっかりしているので、補修さえすればまだまだ住めるものがたくさんありますね。
そんな中で出会ったのが、加美区・奥豊部の古民家でした。私は、「奥豊部で一番高い家」って呼んでいるんですが、一番高い値段じゃなくて、立地が一番高いところにあるっていう意味なんですけど、まず気に入ったのはこのロケーションですね。ロケーションはいくらお金を払っても、リノベーションをしてもどうにもなりません。ここの立地に惹かれて購入を決めました。
後は、DIY大家としてこれまでの経験で改修にどれぐらいの費用がかかるのか…というところが決め手です。傷んでいる古民家は床や壁をめくってみないと分からない部分もたくさんありますが、物件見学の2、30分の間にどれぐらいの費用と手間がかかるのかをぱっと計算するわけです。この家だったらできるなって思いました。
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使える材料は捨てずに使う
私が信条にしているのは、何でも新しいものに頼らず、使えるものやいただけるものは捨てずに活用することです。水回りなどはやはり機能的な方が使いやすいですし、借りてくださる方も快適に過ごせるので風呂やトイレは新しくしましたが、キッチンの窓はそのまま活用し、勝手口のドアなどは使えそうな戸の大きさを加工して作り変えました。
他にも、家を改修するから欲しい物があったら何でも持って行って良いよ!という地域の方の家から畳や食器の収納に使えそうな棚などをもらってきました。これらのものも捨てるとゴミですが、ちょっと手を加えるとまだまだ使えるんですよね。
この家の一番の目玉は、浴室です。もともとはモルタル打ちっぱなしで、立ったら頭が天井に当たるほどの狭い空間でしたが、それを全部壊して最新式のユニットバスを入れました。ひさしの部分が規格サイズよりも低かったので室内側に浴室を伸ばし、ひさしの下はちょっとした坪庭のような感じに作り変えました。窓の外には隣家が無いので、浴室から外の風景を見ながらお風呂に入れますよ。
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田舎暮らしの応援と空き家の救済
DIY大家として私が一番願っているのは、まずは地域の空き家の救済です。私のように空き家を自分である程度改修して、住んでいない期間を貸し出すということをやることによって、「こんな使い方ができるだ!」っていうことに気がついてもらいたいということもありますし、初めて田舎暮らしをする人たちにとってのチャレンジの場所になってほしいなと願っています。
古民家に住んでみたいっていう夢を持っておられる方は多いと思いますが、実際のところはお金もかかるし家のことばっかりにかまっていられないので、結構大変なんですよね。DIY大家がある程度快適に住める状態にまで改修をしておくので、借りた人に自分でやってみたいように改修作業の練習をしてもらう場所にしてもらっても良いと思っています。
業者が扱わないような個性的でオンリーワンの物件を供給するということが、私にとってのやりがいですし、役割なのかな。完成予想図を見てもらっても分かると思いますが、生活に必要な基本的なところは全部きれいに作り直してあるんですよ。後は、そこに自分なりの生活の色を足していってもらえれば、きっと自分らしい多可町ライフを創り上げることができると思います。
そうやっていろんなことにチャレンジしながら地域の人たちと仲良くなって、田舎でのコミュニティーの素晴らしさや家の改修作業の楽しさなどを実際に体験してもらえたら、きっとこの地に長く住んでもらえるんじゃないかと思っています。
いつか私たち夫婦が多可町に越してくるまでに、この家をベースにしてこのまちを好きになってくれるファミリーが増えてくれたら素敵なことだなと思っています。